Dirk Schrader、Resident CISO(EMEA)&セキュリティリサーチ担当副社長、Netwrix
2025年8月12日
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出典:Cagkan Sayin(Alamy Stock Photo経由)
論説
世界中でますます多くの組織がクラウドへと移行しており、サービスとしてのソフトウェア(SaaS)が約束する柔軟性と拡張性に惹かれています。セキュリティチームは、ランサムウェアやユーザーアカウントの侵害といった既知のサイバー脅威からクラウド運用を守ることには慣れていますが、急速なSaaS導入に伴い深刻化する、はるかに目立ちにくい脅威――ビジネスロジックの脆弱性――を見落としがちです。
ビジネスロジックとは、WebアプリケーションやSaaSプラットフォーム内でデータがどのように流れるかを示すものです。これは、ユーザーがシステムとどのようにやり取りするかの正式な設計図であり、注文管理やライセンス処理などをカバーします。ビジネスロジックの脆弱性とは、アプリケーションの中核的なプロセスの設計や実装に欠陥があり、その正当な処理フローを悪用して意図しない結果を引き起こすことができる状態を指します。このような脆弱性は、従来のセキュリティ対策では検知できないリスクに組織をさらす可能性があります。
アプリケーションの死角:ロジックの悪用を理解する
ビジネスプロセスの複雑さは、悪意ある攻撃者にとって魅力的な標的となります。たとえば、顧客が購入プロセスを改ざんして取引途中で価格を下げたり、攻撃者がセッションを悪用して正規ユーザーのアカウントを乗っ取ったりすることが可能です。
ビジネスロジックの欠陥は、運用ルールの誤解、検証の不十分さ、ユーザー行動に関する誤った前提(たとえばアクセス制御がクエリパラメータのみに依存している場合)などから生じることが多いです。たとえば、患者記録がclinic.com/records?patientID=101のようなURLでアクセスでき、リクエストが適切に検証されていない場合、イコールの後の数字を変えるだけで他のユーザーの記録に不正アクセスできてしまいます。2024年にも同様のロジックの欠陥が悪用され、サードパーティの契約業者がアクセス権を悪用し、カンタス航空の予約システムから数百人分のマイレージポイントを自分たちの管理する単一アカウントに移す事件が発生しました。
多くの場合、ビジネスロジックの脆弱性が一度悪用されても、従来型のデータ侵害ほど大きな被害にはなりません。しかし、繰り返し発生すると「千の小さな傷による死」に至ることもあります。たとえば、小売業者が一度きりの利用を想定した割引コードを配布している場合、システムのロジックの欠陥で使用後に無効化されなければ、各顧客が同じコードを何度も何週間も使い続けることができます。この種の脆弱性は決済プロセッサーのStripeにも大きな損害を与えかけましたが、幸いにもホワイトハッカーが「一度きり」の2万ドル割引コードを何度も利用できた方法を報告してくれました。
ビジネスロジックの脆弱性の発見が難しい理由
既知の脆弱性がCVEとしてカタログ化されているのとは異なり、ビジネスロジックの脆弱性は組織ごとに固有です。自社固有の状況に焦点を当てた個別のアプローチだけが、それらを特定し、悪用を防ぐ助けとなります。
セキュリティチームは、AIを活用した場合でも自動化されたペネトレーションテストは既知のパターンにとどまりがちであることを念頭に置くべきです。ビジネスロジックの問題は、コードが意図通りに動作しているため、自動コードレビューでは見逃されることが多いのです。根本的なロジック自体が誤っているためです。だからこそ、人間の創造力が今なお重要なのです。内部ワークフローの詳細なドキュメントをもとに、熟練したペンテスターは自動化システムでは見抜けない潜在的な弱点を発見できます。
開発チームとセキュリティチームの間のサイロを取り払うことで、ビジネスロジックの欠陥が本番環境に到達するのを防ぐことができます。セキュリティ思考が開発に組み込まれていれば、防御はより強固になります。そのためには、開発チームに厳格な入力検証やエラーハンドリングなどの防御的コーディング手法を教育することが不可欠です。アプリケーションの意図されたビジネスルールを文書化し、状況に応じた認可チェックやプロセスフローの検証を実装する方法を理解させる必要があります。
堅牢性の構築:より賢い防御戦略
ゼロトラストセキュリティモデルは、ビジネスロジックの脆弱性が悪用されるリスクを軽減するための基本です。自社開発かサードパーティ製かを問わず、すべてのWebアプリやSaaSプラットフォームに適用すべきです。その核心原則はシンプルです。「何もデフォルトで信頼しない」。すべての入力、データフロー、セッションを継続的に検証します。認証は一度きりのチェックポイントではなく、継続的なプロセスである必要があります。
最小権限の原則を厳格に適用することも重要です。特定のユーザーやプロセスが本当に必要とするリソースや機能だけにアクセス権を与えます。そうすることで、万が一侵害が発生しても、攻撃者がシステム内を自由に移動できず、被害を限定できます。権限を厳密に管理するための基本的なベストプラクティスは、ロールベースのアクセス制御(RBAC)アプローチを用いることです。ユーザーの業務機能に応じてアクセス権を付与することで、一貫性と正確性を担保できます。また、アプリケーションの正しいフローをマッピングするのと同様に、データアクセスパターンをユーザーロールにマッピングし、過剰な権限を検出することも可能です。
不審な活動の継続的な監視は、ビジネスロジック攻撃をリアルタイムで検知し、迅速かつ効果的に対応するために不可欠です。特定された異常をユーザーの文脈や過去の活動と関連付けることで、セキュリティチームはアプリケーションの正当な利用と脆弱性の悪用による悪意ある行為をより正確に区別できます。
結局のところ、ビジネスロジックの保護は単なる技術的要件ではありません。ビジネスの必須事項であり、絶えず進化する脅威の世界で業務を維持し、機密データを守るために不可欠です。