量子コンピューティングのハードウェア・ソフトウェア企業であるIonQは、通常の1台のCPU上でリアルタイムに動作する量子誤り訂正デコーダーを開発したと発表しました。これにより、大規模な量子システムの処理速度を低下させかねない古典コンピューティング側のオーバーヘッドを削減できる可能性があります。最大408個の論理量子ビットを対象としたシミュレーションでは、標準的な動作ノイズ条件下において、このデコーダーが追加する処理時間はわずか0.02%にとどまりました。
量子コンピューティングの力の源は量子ビット(qubit)と呼ばれる特殊な「ビット」にあります。量子ビットは、従来の古典コンピューティングにおけるオン/オフの二進状態とは異なり、その間にある多数の状態を取ることができます。量子ビットが抱える主な問題は、こうした「オンでもオフでもない」重ね合わせ状態が環境ノイズに対して極めて脆弱で、容易に崩壊してしまい、量子コンピューティングにとって無意味な二進状態に戻ってしまう点です。
動作可能な量子ビットは「論理量子ビット」と呼ばれ、崩壊した「論理」量子ビットを検出するために必要となる、より多数の追加の量子ビットは「物理量子ビット」と呼ばれます。現在の解決策は、欠陥が生じた(崩壊した)論理量子ビットをそれぞれ特定できるよう、より多くの物理量子ビットを用意することですが、これには、より多数の物理量子ビットを通じて得られる情報を復号するために、低速な古典コンピューティングが必要になります。
このプロセスは、量子コンピューターが本来持つ速度と処理能力に遅延を加えることになりますが、その結果として得られるのは、より耐障害性が高く、したがってより強力な量子コンピューティングです。しかし、これはより強力な量子コンピューターを構築し続ける上で、皮肉なトレードオフをもう一つもたらします。より強力な量子コンピューティングは、一般的により多くの論理量子ビットを使用することで実現されますが、新たな論理量子ビットを1つ追加するたびに、誤り訂正を維持するための大量の追加の物理量子ビットが必要になるのです。
量子ビット数の増加とその脆弱性が相まって、古典的な量子誤り復号処理によって生じる遅延は必然的に増大していくことになります。
IonQは、古典コンピューターが引き起こすこの大きなボトルネックとされる問題に対する新たな解決策を発表しました。それは、単一の標準的な古典コンピューティング用CPU上で動作する、新しいエンドツーエンドのリアルタイム量子誤り訂正デコーダーです。IonQはarXivに公開した独自の研究において、88個のメモリブロックとマジックファクトリー(データ保存と複雑な計算をそれぞれ個別に担う機能ゾーン)にまたがる最大408個の論理量子ビットをシミュレーションしました。
IonQは、「標準的な動作ノイズ条件下において、当社のデコーダーが導入した『ストレッチ』時間はわずか0.02%にとどまりました。これは、復号処理によるオーバーヘッドが、量子計算全体にほぼ遅延をもたらさなかったことを意味します」と主張しています。
IonQの量子研究責任者であるニコラス・デルフォス(Nicolas Delfosse)氏は、次のように付け加えています。「数百個の論理量子ビットと数百万回に及ぶ論理演算にわたってリアルタイム復号を成功裏に検証できたことは、重要な節目です。さらに、当社のデコーダーが単一のCPU上で動作するという事実は、商用規模の耐障害性量子コンピューティングへの実用的な道筋を示すものです」
IonQは、今回の新たな誤り訂正デコーダーにより、量子システムが論理量子ビット数の面で拡大しても、あるいは演算の深さの面で拡張しても、古典ハードウェア側のオーバーヘッドが指数関数的に増大する必要はないことが確認されたと主張しており、これはより強力な量子コンピューターの実現に向けた確かな道筋を示すものだとしています。