経度問題――AIの時代、検知を制するのは推測ではなく事実

Opinion

Sep 10, 20266 mins

何世紀もの間、航海士たちは大海原を推測だけで進み、時に座礁しました。セキュリティも同じ教訓に直面しています。真実は希望的観測に基づく計算に勝るのです。

帆船の時代のほとんどの期間、船長は数分で緯度を割り出すことができましたが、経度についてはまったく分かりませんでした。

緯度は太陽を見れば読み取れます。しかし東西の位置を示す経度には、そうした簡単な方法がありませんでした。大西洋に出て三週間も経つと、航海士は自分がどれだけ北に来たかは分かっても、どれだけ進んだかは推測するしかなかったのです。その推測はしばしば外れ、外海での間違いは岩礁を意味しました。1707年、英国艦隊が自国の岩礁で遭難した後、議会はこの問題を解決した者に最大20,000ポンドの懸賞金を出すと発表しました。

問題は海そのものではなかった

経度は、実のところ海の問題ではありません。時間の問題なのです。

地球は1時間に15度自転します。グリニッジという固定の基準点における正確な時刻が分かれば、それを現地の正午と照らし合わせることで、その差から自分の位置が分かります。問題全体はたった一つの問いに集約されます。基準となる時刻という一つの事実を、失うことなく海の向こうまで運べるかどうか、というものです。

当時権威とされた解決策は「月距法」でした。月と星の間の角度を測定し、それを印刷された表と照らし合わせて計算することで時刻を導き出す方法です。エレガントで厳密な手法ではありました。しかしそれは推論にすぎません。空を見上げて、希望的な予測を計算していたにすぎないのです。

前提そのものを拒んだ大工

ジョン・ハリソンは違うことをしました。

ヨークシャーの村出身の独学の大工だったハリソンが取った方法は、時刻をより巧みに推測することではありませんでした。時刻そのものを「運ぶ」ことだったのです。彼は、揺れる甲板、暑さ、寒さ、塩分、湿気にも動じない時計を作ろうとしました。それがあれば、何ヶ月も海上にいてもグリニッジ標準時を保持できます。そうなれば、経度は単なる算術になります。自分がおそらくどこにいるかという計算ではなく、自分が実際にどこにいるかという確定した事実になるのです。

1761年、彼が製作した4番目の時計はジャマイカへの航海に用いられ、81日間の航海の後もわずか5秒しか狂っていませんでした。これは経度にして約1海里の誤差に相当します。

この違いは重要です。どれほど的確な推測であっても、それは確率にすぎません。しかし事実そのものを運べば、答えはもはや賭けの問題ではなくなるのです。

それでもまだ問題は残っていました。ハリソンが作り上げたのは、手作業による一つの見事な装置にすぎません。海軍が必要としていたのは、どの船でも安価かつ大量に搭載できるものでした。クロノメーターは高価なままだったため、ハリソンがそのアイデアの正しさを証明した後も、長らく月距法が使われ続けました。信頼できる時計をあらゆる船の甲板に搭載できるようになって初めて、事実は本当の意味で勝利を収めたのです。

AI時代は経度問題である

攻撃者と防御側は今、同じエンジンに手を伸ばしています。完璧な釣り餌となる文面を書ける推論モデルは、それを見破ることもできる同じクラスのモデルです。双方が同等の道具を手にすると、勝敗はますます「何をそのモデルに与えるか」で決まるようになります。

セキュリティの歴史のほとんどにおいて、私たちは天文学者たちと同じことをしてきました。推論の精度を上げることに注力してきたのです。より優れた異常スコアリング、より優れたレピュテーションシステム、過去の悪意ある挙動をより精緻にモデル化する手法。つまり、空をより巧みに読む方法を磨いてきたにすぎません。

攻撃者もほぼ同じやり方で動いています。組織図をスクレイピングし、誰が送金を承認するのかを推測し、どのドメインが自社のものかを推測し、数ヶ月前の「普段の様子」をかき集めます。彼らが描く像は外部からのものであり、しばしば古く、確認も取れていません。彼らは星を読んでいるにすぎないのです。

一方、防御側は攻撃者が推測するしかない事実を、自ら保持できます。実際に誰が支払いを承認する権限を持ち、それには二重承認が必要かどうか。外部の者が「見慣れない」と警戒しそうな、実際には自社が保有する99個のドメイン。実在する取引先と、そもそも存在したことのない取引先の区別。こうした事実です。

もっとも、この優位性は絶対的なものではありません。攻撃者は盗まれたパスワードや侵害されたメールボックス、侵害されたサプライヤーを通じて内部に侵入してきます。しかし内部への侵入には彼らにとってコストがかかり、たとえ侵入できたとしても、彼らは十分に見通せない、あるいは確実に最新の状態を保てない事実を相手に動いていることになります。30年間、この非対称性は攻撃者側に有利に働いてきました。彼らは一度だけ成功すればよかったからです。グラウンドトゥルース(ground truth)こそが、その優劣を逆転させ始める鍵なのです。

CFOからの送金依頼を例に考えてみましょう。文法は完璧で、口調も自然、スレッドも本物に見え、レピュテーションチェックや異常検知もすべて通過します。不自然な点が何一つ見当たらないからです。

それを見破る決め手となるのは、事実です。承認者として記載された人物が、その口座の正式な承認者として登録されていない、あるいは返信先のドメインが自社の保有する99個のドメインのいずれにも該当しない、といった事実です。自社のグラウンドトゥルースを保持しているシステムであれば、そのメールが「怪しく見えるかどうか」を判断する必要はありません。そのメッセージが、すでに真実だと分かっている情報と矛盾していないかどうかを問えばよいのです。

ここからが難しいところです。グラウンドトゥルースは劣化します。

承認者は変わり、ドメインは増え続け、事業部門は誰も記録していない取引先を追加していきます。維持を怠った事実は、体裁の良い自信満々の推測に成り下がります。こうした記録を正確に保ち続けることは、現代版で言えば、クロノメーターをあらゆる船に搭載し、そのすべてのゼンマイを巻き続けるようなものです。

これによって、絶対に騙されないシステムができるわけではありません。しかし、騙される確率をはるかに小さくできますし、後でその判断について説明責任を問われる立場の人間にとっては、その判断根拠を後から読み返せるシステムになります。真実を保持すること、それが理念です。そしてそれを真実であり続けさせること、それが実際の仕事です。

300年間、当代随一の航海士たちでさえ大海原を推測だけで渡り、優秀な者でさえ座礁することがありました。あなたの組織の門前にいる攻撃者たちも、それとほぼ同じことをしています。外部からあなたの世界を推測し、もっともらしい姿を計算で描き出しているにすぎません。

推測というものは、艦隊を難破させるのに十分な精度を持ち得ます。問題は、あなたの防御が今も星を読んで推測しているのか、それとも事実そのものを運んでいるのか、ということです。

どこから着手すべきか分からないなら、まずは攻撃者が最も推測に頼らざるを得ない事実、つまり「自社で実際に資金を動かせる権限を持つのは誰か」というところから始めてください。

Alan LeFort氏は、AIネイティブのメールセキュリティ企業StrongestLayerのCEO兼共同創業者です。Proofpoint、McAfee、Intelでのサイバーセキュリティ分野での25年に及ぶリーダー経験を持ち、AIとメールセキュリティアーキテクチャの交差点を専門としています。

翻訳元: https://www.csoonline.com/article/4220266/the-longitude-problem-in-the-ai-era-detection-is-won-on-facts-not-guesses.html

本記事は csoonline.com の記事を翻訳・要約したものです。