米国政府は、2026年度「全国医療詐欺一斉摘発(National Health Care Fraud Takedown)」の一環として、記録破りのメディケイド詐欺訴追を発表しました。今回の法執行措置では、65億ドル以上の医療詐欺・オピオイド乱用に関連する請求をめぐり、医師や有資格医療専門家90人以上を含む455人の被告が訴追されています。
今回の法執行措置は、米国保健福祉省監察総監室(HHS-OIG)、メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)、麻薬取締局(DEA)など、政府全体が一丸となる横断的なアプローチで実施されました。56の連邦管轄区、45の州・準州、そして過去最多となる50の州メディケイド詐欺対策室が参加し、2週間にわたる一斉摘発では前例のない国際協力体制も敷かれました。司法省(DOJ)は現金、高級車、貴金属その他の資産を合わせて1億8,200万ドル以上を押収しています。
「医療制度を隠れ蓑に米国民から不正に搾取しようとするあらゆる勢力に対し、われわれは攻勢を積極的に拡大しています。本日の摘発・逮捕事例が示すように、規模が大きすぎる案件も、複雑すぎる手口も、そして逃げ込める隠れ場所も存在しません。われわれのメッセージはシンプルです。患者よりも利益を優先するなら、刑務所行きを覚悟してください」と、司法省全国詐欺執行部門のコリン・M・マクドナルド司法次官補は述べています。
高度なアルゴリズムとAIツールによる「支払い後追跡」から「支払い前検知」へのシフト
今回の一斉摘発では、これまでの「支払い後に追跡する」という受動的なアプローチから脱却し、犯罪者が不正に金銭を引き出す前に詐欺の可能性を特定するため、最先端のデータ分析アルゴリズムと人工知能(AI)ツールが活用されました。詐欺防止へのAI活用は今後さらに大幅に拡大される見込みです。昨年設置されたデータフュージョンセンター(Data Fusion Center)のもとで初となる刑事訴追を含む多くの詐欺スキームにおいて、不審な活動の特定にAIツールが用いられています。
データフュージョンセンターは、不正請求や医療詐欺の追跡・特定・防止を目的として設置された機関で、従来のデータ分析に財務分析を組み合わせ、医療詐欺ユニットのデータ分析チーム、HHS-OIG、FBI、その他機関の専門家で構成されています。広範な政府機関間のデータ共有協定によって支えられているのも特徴です。CMSのメフメット・オズ長官(博士)は「米国の患者から盗む犯罪者を訴追することは必要不可欠ですが、1ドルも外部に流出する前に阻止することの方が、より賢明な対応です」と述べています。
データフュージョンセンターの活躍により、提供されなかった精神保健サービスをイリノイ州メディケイドに請求していた6,700万ドルの詐欺スキームが特定されました。被告は1日500時間以上のカウンセリングや治療サービスを請求していたとされますが、これはスタッフ全員が24時間稼働したとしても実現不可能な時間数です。データ分析によって、被告が精神保健サービスの費用を請求した日に患者が別の医療機関に入院していたことも明らかになりました。データ分析完了からわずか5日で検察が案件を立件し、被告は国外逃亡を試みてから7か月以内に逮捕されています。
CMSの措置により、1,079人の医療提供者が停止処分を受け、1,403人の請求権が取り消されました。48件の民事金銭処罰(Civil Monetary Payment)の和解によって7,300万ドル以上が回収されたほか、1,400件以上の排除処分も行われています。また、CMSが特定し支払いを阻止した不正請求に対し、HHS-OIGが25件の措置を通じてメディケア信託基金への100億ドル以上の支払いを求めています。CMSは新たな取り決めのもと、DOJの詐欺部門が活用するデータ分析アルゴリズムおよびAIツールを支援するため、統合データリポジトリ内にクラウドコンピューティングスペースを提供すると発表しました。さらに、13人の被告に対して1,480万ドルの医療詐欺スキームに関する民事訴訟が提起されており、31人の被告との間では2,300万ドルの民事和解が成立しています。DEAによる規制薬物の取り扱い・処方権の取り消しを求める行政措置は、2025年10月1日以降928件に上っています。
詐欺が納税者に課すコストと深刻な患者被害
医療詐欺は米国の納税者に経済的損害を与えるだけでなく、脆弱な患者を搾取し、死亡事例を含む深刻な健康被害をもたらしています。ある事例では、フロリダ州の心臓血管検査・治療施設の医療部長が、学生アスリートへの医学的に不要な心臓血管検査に関する8,900万ドルの詐欺スキームに関連して訴追されました。この医療部長は医療給付プログラムを不正に詐取するため虚偽の診断書を作成していたとされ、実際に検査結果を確認することなく「正常」として承認した事例も多数あり、中には承認まで数秒しかかっていないケースも存在するとされています。
心臓に異常が認められた学生アスリートたちは、自分が心臓突然死の高リスク状態にあることを知らされていませんでした。ある事例では、患者の検査結果に心臓肥大が示されていたにもかかわらず「正常」として承認されていました。この患者は、検査結果が正常と承認されてから24時間以内に心臓肥大の合併症で死亡しています。
DOJの発表では、創傷ケア(特に同種移植片:アログラフト)とホスピス(終末期医療)プロバイダーに関する詐欺事例が重点的に取り上げられており、これらの領域での詐欺件数は大幅に増加していることから、今後も主要な取り締まり対象となる見込みです。創傷ケアに関するメディケアの請求額は、2023年の34億ドルから2024年には75億ドルへと2倍以上に膨らみ、2025年にはさらにほぼ2倍の144億ドルに達しています。この支払い増加は医学的必要性によるものではなく、違法なキックバックや医療詐欺スキームが原因です。羊膜由来の創傷アログラフトに関する不正請求については、企業幹部1名と医療専門家8名を含む11人の被告に対し、6つの連邦管轄区で訴追が行われています。
あるスキームでは、アログラフトを製造していない企業が別の会社からそれを調達し、2,000%の値上げを行ったうえで、その40%を違法なキックバックとしてマーケターに支払っていました。主な標的はホスピス患者で、傷の大きさをはるかに超えるサイズの医学的に不必要なアログラフトが提供されており、担当医師との連携なし、感染に対する適切な治療なし、そして本来処置を必要としない表在性の創傷に対しても使用されていたとされています。被告はこの会社から2,400万ドル以上を受け取っており、関与したマーケターや医療専門家には移植片1平方センチメートルあたり500ドルから600ドルが支払われていたケースが多かったとされています。
「本日の歴史的な法執行措置は明確なメッセージを発しています。患者や米国民を犠牲にして私腹を肥やすために医療制度を悪用するならば、われわれは必ず見つけ出し、訴追し、責任を問います。HHSは今後も法執行パートナーと連携して患者を守り、納税者の資金を保護し、医療制度の健全性を取り戻すために尽力します」と、HHS長官ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は述べています。
翻訳元: https://www.hipaajournal.com/2026-national-health-care-fraud-takedown/