セキュリティ
英国交通警察の6カ月間にわたる顔認証の試験運用で、検知アラートはわずか1件。しかも誤検知でした
英国交通警察(BTP)は32万ポンド超を投じ、50万人に上る通勤客をリアルタイム顔認証カメラで読み取りました。しかし、システムは捜索対象者を1人も特定できませんでした。
市民的自由を擁護する団体Libertyが情報公開請求で入手した数字を、The Guardianが報じました。それによると、BTPの6カ月間の試験運用ではロンドンの鉄道駅で50万人以上の顔をスキャンしたものの、アラートはわずか1件でした。しかもそれは誤検知でした。つまり、この技術は正しい一致を1件も出せておらず、LFR(リアルタイム顔認証)のアラートを直接の端緒とした逮捕もありません。
投入された資源も決して小さくありません。数字によると、展開には警察官の約100時間が費やされ、費用は32万ポンドを超えました。
プライバシー保護団体のBig Brother WatchはThe Registerに対し、この結果はより深刻な影響がなければ笑い話で済むところだと語りました。
「英国交通警察によるリアルタイム顔認証の試験運用の数字は、私たちの権利と自由にとって憂慮すべき意味合いを持っていなければ、笑ってしまうほどの結果です」と、同団体のシニア法務・政策担当官ジャスリーン・チャガー氏は述べました。「ロンドンの駅は毎日何百万人もが利用しています。その人々は、自分でも気づかないうちに、すでにデジタル版の面通しに並ばされているかもしれません」
では、納税者は32万ポンドで何を得たのでしょうか。
「罪のない人々が通勤中に侵襲的な身元確認を受けさせられるのは公正ではありません。そのうえ、警察官の100時間近い時間と32万ポンドもの公金をつぎ込みながら、これほど乏しい成果しか出ていないのは、なおさら侮辱的です」と、同氏は述べました。
「試験運用の数字が示すのは、警察官をAI監視に置き換えてもロンドン市民の安全は向上しないということです。英国交通警察はリアルタイム顔認証の使用をやめるべきです」
しかしBTPは使用をやめません。それどころか、試験運用は11月まで延長され、ネットワーク・レール管轄の駅からロンドン地下鉄にまで拡大されました。
このシステムにはNEC製の顔認証技術「NeoFace M40」が使われています。指定エリアを通過する人々をカメラがスキャンし、顔を警察の監視対象リストと照合します。ソフトウェアがリスト上の人物を見つけたと判断するとアラートを出し、警察官が確認したうえで、その人物を呼び止めるかどうかを判断します。
BTPは、監視対象リストにない人物は特定できず、生体データはただちに削除されると説明しています。また、展開はインテリジェンスに基づいて行い、「重大な危害をもたらす犯罪者」が通る可能性が高いと警察官が見込む犯罪多発地点を狙っているとしています。
ただ、標的を絞っているという主張に、誰もが納得しているわけではありません。Privacy Internationalのシニア政策担当官サラ・シムズ氏はThe Registerに対し、今回の試験運用の結果は、どれだけ多くの無実の通行人の顔が処理されうるかを如実に示していると語りました。
「英国交通警察によるリアルタイム顔認証(FRT)の試験運用の結果を、深く憂慮しています。この結果は、リアルタイム顔認証技術がいかに侵襲的で不釣り合いであり、なぜ許されるべきでないかを改めて示しています。何千人もの人々が、日常生活を送る中で、ときには気づかないうちに、きわめて機微な顔データを公共の場で処理されています。標的を絞った措置だという主張も、これでは成り立ちません」
シムズ氏は、BTPが利用を拡大し続けているにもかかわらず、この技術を具体的に規律する法律がないことも指摘しました。
「さらに懸念されるのは、顔認証を規制する具体的な法的枠組みがないまま、展開の延長を続けていることです。人々の権利を守るには、利用に対する制限と保護措置が不可欠です」と、同氏は述べました。
こうした説明があっても、警察による顔認証をめぐる広範な論争は収まっていません。今年前半には、独立機関の検証で一部の運用しきい値で人種的偏見への懸念が浮上し、英国の警察が展開を一時停止しました。
BTP自身の実験は、これまでのところ、かなり異なる問題を生んでいます。50万人を超える顔をスキャンして、カメラが唯一選び出したのは、人違いの相手でした。®