今年相次いだデータ侵害を受け、複数の保険会社が、AI関連の事前対応型保険の提供を始めました。突発的な攻撃の標的となり得る企業や、AIエージェントの暴走が攻撃の発生源となる企業を補償する商品です。一方で、この新たなリスクをあえて避ける保険会社もあり、企業は自力で対処法を探らざるを得ません。
企業を攻撃する暴走AIエージェントや、社内で作られたのち企業環境を突破して第三者を攻撃するAIエージェントに備える保険は、まだ珍しい存在です。多くの企業は、自社のサイバー保険や賠償責任保険がAI関連リスクを補償していると誤解していますが、実際には補償されないケースが少なくありません。
企業の保険契約は暦年末に更新されることが多いため、CFO、法務責任者、顧問弁護士、CISOなど、保険を担当する経営幹部は、いまのうちに既存の契約内容を精査する必要があります。現在のAIリスクを把握し、契約に含まれている免責事項を洗い出すためです。AI専用の保険を扱う保険会社と面談し、既存の契約ではカバーされない補償内容を確認するにも、よい時期です。保険会社は、AIやAIエージェントの利用拡大に、企業のガバナンスが追いついていないと警告しています。最近発生した、OpenAIのエージェントによるHugging Faceなどのサーバーへの攻撃のような暴走AIによるインシデントは、保険会社の懸念をいっそう高めています。
2025年の時点では、AI関連の損失に特化した保険はまだ黎明期にありました。保険会社は、一般的な専門職賠償責任保険(E&O)、取締役・役員賠償責任保険(D&O)、あるいは通常の賠償責任保険に最小限の補償を含める程度でしたが、こうした保険の多くはAIの実際のリスクに対応するには不十分です。
現在では、複数の専門保険会社がAI関連インシデントの補償を用意しています。形態は、特約、テクノロジーE&O保険への文言追加、単独の保険商品などさまざまです。AIリスクに特化した保険や明示的な特約、専門的な補償を販売する保険会社や専門プロバイダーには、Armilla、Coalition、Corgi Insurance、Cowbell、Munich Re、Beazleyなどがあります。
一方で、大手保険会社のなかには、商業一般賠償責任保険からAI関連リスクや自律型マシンの挙動を制限、または除外する動きもあります。採用が進んでいるのは、Verisk/ISOの免責特約です。保険業界専門誌Insurance Business(IB)によると、この免責は、生成AIが企業に広く浸透する前に作成された保険契約の空白部分に対処するものです。ISOの特約は、生成AIに起因する身体障害、財物損害、人格的・広告傷害を補償の対象から外します。IBによれば、Chubb、Travelers、Berkshire Hathaway、AIG、W.R. Berkeyがこの特約を採用しています。
AI専用保険の加入条件を満たすには
では、暴走AIエージェントによる潜在リスクから生じる損失に、企業はどう備えればよいのでしょうか。リスクを減らし、AI専用保険に加入しやすくするために、今日から実践できる対策を紹介します。
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既存のサイバー保険と企業賠償責任保険を見直し、AI関連のどの損失が補償されるのか、セキュリティ上のどこにリスクがあるのかを正確に把握する。
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ネットワークインフラを分析し、AIエージェントによる内向き・外向き双方の攻撃に対処するための十分なガードレールと、具体的な方針・手順があるかを確認する。
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法務責任者または顧問弁護士に第三者との契約を精査させ、サプライチェーンがAI脅威から自社を守る内容になっているかを確認する。
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サプライチェーンのパートナーに対し、その先のパートナーにも同様の保護を求めるよう要請する。企業には、サプライチェーンの何段階も下流にまで及ぶ保護が必要。
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ベンダーがAIアプリケーションの構築に用いている設計パターンやアーキテクチャ原則を、エンジニアリングチームに調べさせる。AI開発はすべてが互換性を持つわけではなく、セキュリティソフトへの反応も一様ではない。互換性のないアーキテクチャ原則を同じように扱うと、セキュリティ上の空白が生じかねない。
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AIアプリケーションには、業務遂行に必要な最小限のシステム権限と認証情報のみを付与する。
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エージェント型AIは、サービスアカウントやEDR(エンドポイントでの検知と対応)システムと同様に扱う。「設定したら放置」は通さず、監視と保守が必要。
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AIは、企業が直面するあらゆる問題を解決する万能薬ではない。特定の用途と構成に適したツールである。ネットワークの不調の万能対策として使えば、侵害を招く。ルール、期待値、成果を文書化した特定のタスクにのみAIを使い、そのうえでAIアプリケーションが具体的な目標を満たしているかを確認する。
サイバー保険以外での補償のあり方
AI起因のリスクの補償は、サイバー保険の守備範囲から外れることもあります。AIは企業内に広く浸透しているため、その障害に対する補償は、ほかの専門分野の保険にも現れる可能性が高いでしょう。
たとえば、人事部門では採用ツールとしてAIが広く使われていると、ロンドンのシンジケート向けに保険を引き受けるロイズのカバーホルダー、Armillaで引受責任者を務めるAndrew Correll氏は話します。ハルシネーション(もっともらしい誤情報の生成)を起こしたり、保険の対象となる事象を引き起こすバイアスを示したりするAIツールの補償は、企業の賠償責任保険や、専用のサイバー保険とは別のユースケース別の補償に含まれる場合があるといいます。
AIの補償は、社内のコンピューターが攻撃されて完全に機能停止する場合だけを対象にしているわけではないと、BeazleyでAI・新興リスク戦略責任者を務めるCraig Linton氏は指摘します。場合によっては、AIエージェントが持ち込んだ不要なデータをシステムから消去するだけで済むこともあります。そのためにシステムをオフラインにすれば業務が中断し得ますが、システムのオフライン化や障害を強いる一般的なマルウェア攻撃(補償対象)とは異なります。Linton氏によると、Beazleyは攻撃防御のための専用保険に加え、同氏が「AI自主停止補償」と呼ぶ特約も提供しています。
企業がAI関連の補償に加入できるかどうかについて、引受担当者は「コントロール全体を包括的に評価する」とCorrell氏は述べます。
「人間によるレビューはもちろんその一部です。ただ、どのようなガードレールやルールが整備されているかも見ています」と同氏は語ります。
Linton氏によると、BeazleyのAI補償の申込書には、約15のセキュリティコントロールに関する数十の質問が含まれています。セキュリティコントロールの大半は、多要素認証、バックアップと復旧、トレーニング、ネットワーク保護など、サイバー保険の加入に不可欠なものです。同社はこれに加え、運用技術(OT)のセキュリティ、合併・買収、ペイメントカード業界(PCI)のセキュリティについても質問しています。
同氏は、AI保険を購入する担当チーム(多くは法務責任者や顧問弁護士、最高財務責任者、上級幹部)に注意を促します。従業員が、会社支給や私物のデバイスで、管理されていないAIを使っている可能性があるというのです。過去に企業が直面したシャドーITと同様に、勤務先がツールを提供せず、IT部門も安全性を確保していなければ、従業員は安価で手軽に入手できるシャドーAIに頼ります。AIの場合、これが重大なリスクを招き得ると同氏は述べます。
複数の取材先が挙げた課題の一つが、生成AIの大規模言語モデル(LLM)によくある、ハルシネーションとバイアスへの対処です。Corgi Insuranceでは、ハルシネーションや不正確な出力、偏ったモデル出力の補償が、テクノロジーE&O保険の対象となる場合があります。生成AI技術が普及する前に作成された一般的なテクノロジーE&O保険は、モデルの出力の扱いについて明記していなかったり、曖昧だったりする可能性があります。同社は、AI出力に関する明確な文言があるかを確認し、アルゴリズムバイアスの免責条項を慎重に精査するよう勧めています。AI中心の保険を選ぶ際は、まさに細部に落とし穴があると、Cowbellの共同創業者兼CEOであるJack Kudale氏は注意を促します。保険の文言は、悪意のないシステム障害を対象としているか。外部からの侵入を伴わない不正な情報開示を対象としているか。それはサイバー補償に該当するのか、テクノロジーE&Oなのか、まったく別のリスクなのか。こうした問いによって、その保険や特約が企業の備えたい脅威に対応するのか、それともVerisk/ISOの免責特約や大手保険会社が採用する同様の制限のような免責に該当するのかが決まります。企業内の見直しで既存契約に免責が見つかった場合、企業はそのリスクを軽減するために専門的な補償を購入できます。
暴走するAIエージェントなどのAIリスクから企業を守るには、インフラ、データパイプライン、サプライチェーンという3つのリスク領域を事前に確実に保護する必要があると、Kudale氏は語ります。
インフラの保護には、設定ミスのサーバー、過剰な権限を持つID、公開されたエンドポイントをなくすことが含まれます。データパイプラインの保護には、ストレージのアーキテクチャを、侵害や情報漏えい、判断ミスから守ることが含まれると同氏は付け加えます。最後に、企業は直接の取引先にとどまらず、その先までサプライチェーンを保護する必要があります。脅威は、二次、三次、あるいはさらに先の取引先からも来る可能性があるからです。
「私たちが最も懸念していることの一つです」とKudale氏は述べます。「ハルシネーションやバイアスについては、他社ほど心配していません。サプライチェーンのほうをより懸念しています」
翻訳元: https://www.darkreading.com/cyber-risk/cyber-insurance-covering-ai-damage