AIと「インデックス化サービス」の登場により、サイバー犯罪者は盗んだデータを徹底的に武器化し、被害組織と取引のあるあらゆる企業へ攻撃を広げられるようになっています。
データ侵害の影響範囲(ブラスト半径)の中央値は、前年から拡大しました。同時に、サイバー犯罪者はAIを使って盗んだデータセットを解析し、後続の詐欺やサイバー攻撃に使える情報を掘り起こし始めています。
流出データのインテリジェンスプラットフォームを手がけるLab 1の調査によると、2026年のデータ侵害では、最初の被害組織以外に中央値で542組織が露出しました。昨年は、侵害1件あたりの影響範囲の中央値が482組織でした。
侵害の影響はサプライチェーン全体に拡大
Lab 1の「2026 Anatomy of a Breach Report」は、データ侵害後にオンラインへ公開された盗難データセットを、コンテンツのレベルで分析したものです。対象はランサムウェアによる恐喝攻撃などで流出した2,089件のデータセット、3億2,800万ファイルに及びます。
Lab 1によると、侵害の規模が大きくなるほど流出するファイルやデータも増え、犯罪者が詐欺や恐喝、後続の攻撃に悪用できる材料が大幅に増えます。
データ侵害の規模の中央値は、データ量が29.8GBで、2025年の13.44GBから122%増加しました。ファイル数も32,734件となり、22,647件から45%増えています。
Lab 1は、このデータセットについて「公開されたランサムウェアおよびデータ侵害インシデントを対象に、侵害されたシステムのフォレンジック取得データから再構築したもの」と説明しています。
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多くの企業は、複雑に連結したサプライチェーンの中核に位置し、顧客やパートナー、ユーザー、サプライヤーの広範なネットワークに関するデータを保有しています。こうした企業から契約書や通信記録などが盗まれると、サプライチェーン全体の企業に波及的な影響が及ぶ恐れがあります。犯罪者は大量のデータをくまなく調べ、弱みになる情報や認証情報、プロフィール情報を探し出し、次の標的を狙うためです。
Lab 1は、2025年から2026年に発生したインシデントを通じて、合計13,436の固有の組織が露出したことを確認しました。
セキュリティ専門家は、Lab 1が示したブラスト半径の数値について、控えめどころか信頼できるものだとみています。
本人確認ベンダーIncode Technologiesの創業者兼CEOであるRicardo Amper氏は、「Lab 1の数字は、私たちが目にしている実態と一致します。以前は、盗まれたデータセットは誰かが時間をかけて調べるまでフォーラムに置かれたままでしたが、AIがその障壁を取り除きました」と話します。
同氏はさらに、「今では、すべてのファイルが読み込まれ、相互参照され、標的リストに変えられています。後続の詐欺がファイル内に名前の挙がったサプライヤーや顧客、パートナーに及ぶため、ブラスト半径は広がり続けています」と指摘します。
盗難データセットをコンテンツ単位で分析
Lab 1は今回の調査で、AIエージェントを投入して侵害されたデータセットを調べ、メールやPDFなどの非構造化データを含む流出ファイルをすべて分析しました。
分析した3億2,800万件の流出ファイルのうち、約1億4,500万件(44%)に金融データが含まれていました。銀行口座情報や納税者識別番号、請求書情報など、詐欺に悪用されかねないデータです。
さらに2,900万件(9%)には人事データが含まれていました。給与記録や雇用契約書、身分証明書類などで、より巧妙なビジネスメール詐欺(BEC)や同様のソーシャルエンジニアリング詐欺に使われる恐れがあります。
さらに深刻なことに、インシデントの約15%では秘密暗号鍵が含まれていました。
台頭する「侵害データのインデックス化サービス」
Lab 1の脅威インテリジェンス部門は、侵害されたデータを体系的に分析している7つの攻撃グループも特定しました。Lab 1によると、特に高度なグループはAIで侵害データセットをインデックス化し、その機能を他の犯罪者にサービスとして販売しています。
侵害データを収益化できるカテゴリーに分類する、犯罪者向けのインデックス化サービスが初めて登場したのは、2026年3月でした。
このプラットフォームは、盗んだ文書の分類や関係性のマッピング、損害を与えうるファイルの特定、法的・規制上のリスクの推定、「最適な」身代金額の算出などを行うとされています。
Lab 1によると、こうした怪しげなサービスが提供する不正な情報には、「相場操縦に使える自社株買い戻しの情報、ランサムウェアの交渉材料になる制裁対象組織とのやり取り、後続の攻撃を後押ししかねないセキュリティレポート」が含まれていました。
攻撃グループFulcrumSecは、40万通のメールアーカイブを奪ったうえで、米国の制裁対象組織との取引に関する61件のメールファイルを抽出したと主張しています。被害組織に対し、規制面と評判面での圧力をかける狙いがあったといいます。
同グループはさらに、AIエージェントを使って700,717件の侵害ファイルを解析し、特定の臨床試験に関わる患者記録1万1,500件を抽出したとも主張しています。
侵害データセットの「武器化」
Lab 1の共同創業者兼CEOであるRobin Brattel氏は、「これまで、侵害データセットを調べるには膨大な時間がかかり、不利な情報を見抜くには専門知識も必要でした。そのため、データ侵害の武器化は進みにくい状況にありました。AIと犯罪者向けのインデックス化サービスが、その障壁を取り除いています」と語ります。
同氏は「つまり、侵害はもはや名指しされた被害組織だけの問題ではありません。流出した金融・人事・個人情報は検索され、結び付けられ、他の多くの組織に対する詐欺やサイバー攻撃、恐喝に使われることになります」と付け加えました。
Zero NetworksのCEOであるBenny Lakunishok氏は、本当に危険なのは、攻撃者がその情報をアクセス権の獲得につなげ、システムから別のシステムへ、組織から別の組織へと移動することだと指摘します。
Lakunishok氏は「AIによって、盗まれたデータの価値は犯罪者にとって飛躍的に高まっています。かつては分析に数週間かかっていたものが、今では数分で掘り起こされ、認証情報や取引関係、新たな標的が明らかになります」と述べています。
対策
CISOは、サプライチェーン全体のどこに「ソフトな」データが置かれているかに、これまで以上に注意を払う必要があります。
Lab 1のBrattel氏はCSOの取材に対し、「認証情報や鍵は無効化やローテーションができますが、請求書や契約書、サプライヤーとの関係、社内のやり取りはそうはいきません。いったん流出すれば、攻撃者の視点では何年にもわたって利用価値が残り得ます」と話しています。
実務上、CISOは、取引先が自社の機密情報を保有していることを前提にすべきです。そうすれば、取引先の侵害がそのまま自社の情報流出になり得ること、そして元のインシデントから長い時間がたっても犯罪者がその情報を悪用し得ることを見込めます。
Brattel氏は「CISOは、どの取引先が自社の機密データを保有しているかを把握し、その取引先が侵害された際には迅速に通知を受けられるようにしておくべきです」とアドバイスしています。