特集
2026年7月20日8分
Anthropicの先進AIモデルは、サイバーセキュリティ業界に地殻変動的な変化をもたらしています。この技術と、セキュリティ戦略への影響について知っておくべきことをまとめました。
1.
Claude Mythosとは何か
Claude Mythosは、Anthropicが開発した先進AIモデルで、サイバーセキュリティおよびヘルスケア分野での活用に最適化されています。
Mythos 5は、当初4月に、審査を通過した少数のテクノロジーパートナーに限定公開され、その後より幅広い展開が計画されていました。
Anthropicは、インフラプロバイダーやオープンソース開発者、大手テクノロジー企業に対してMythosへの限定的かつ管理されたアクセスを提供するコンソーシアム「Project Glasswing」を設立しました。この仕組みは、防御側が攻撃者よりも速く脆弱性を発見・解消できるようにすることを目的としています。攻撃側の多くも、すでにAIツールへの依存を強めています。
2.
Claude Mythosにはどのような機能があるのか
3.
Anthropicは、どのようにClaude Mythosへのアクセスを制限しているのか
Anthropicは、この最先端AIモデルの機能が攻撃者に容易に悪用され得るとして、より広範な提供を制限していると説明しています。
6月には、この技術はさらに150の組織に対して公開されました。Mythosのパートラー企業はすべて、安全性監視のために30日間のデータ保持ポリシーへの同意を義務付けられています。
Mythosの登場により、トランプ政権はAI監督に関する「ハンズオフ」方針の見直しを迫られました。米政府は6月15日、Claude Fable 5とClaude Mythos 5に対して輸出規制を適用しました。この規制は、米国内外を問わず外国籍者によるアクセスを阻止することを目的としていましたが、6月30日に解除されています。
4.
Claude Fableとは何か
より幅広い用途向けに、AnthropicはClaude Fable 5を提供しています。これはMythosと同じ基盤技術をベースにしていますが、「リスクの高い」サイバーセキュリティ領域での操作を制限する厳格なガードレールを備えています。フラグが立てられたクエリは、代わりに旧世代でより能力の低いOpus 4.8大規模言語モデル(LLM)へ自動的に振り分けられます。
5.
Anthropicのセキュリティベンダーパートナーは、Mythosへのアクセスをどのように活用しているのか
AnthropicのProject Glasswingパートナーの一社であるCiscoは、モデルに依存しないセキュリティテスト用の「ハーネス」であるFoundry Security Specをオープンソース化しました。これにより、他のベンダーや企業のセキュリティ担当者も、ゼロから構築することなく同様のワークフローを作れるようになります。
先ごろ開催されたウェブカンファレンスでCiscoの担当者は、防御側はAIを活用することで、セキュリティ問題をはるかに高い速度と規模で特定・確認・解消できると主張しました。攻撃者がAIを使って脆弱性発見から悪用までの道のりを加速させている以上、「1つの問題を見つけ、1つの問題にパッチを当てる」という従来型の脆弱性修復モデルはもはや十分とは言えません。
Ciscoは社内で、自社の製品ポートフォリオ全体にわたる18億行のコードをスキャンするためにAIを活用してきました。
Ciscoによれば、中小企業がセキュリティを強化するのに制限付きの先進AIモデルへのアクセスは必ずしも必要ではなく、認証、セグメンテーション、ゼロトラスト、実際に悪用されている脆弱性の修復優先順位付けといったセキュリティの基本を強化することで、小規模な組織でもより多くの成果を上げられるといいます。
6.
他のAIベンダーは、Claude Mythosに匹敵するものを提供しているのか
Mythosは、人間のチームの能力をはるかに超える規模とスピードでゼロデイ発見を自動化できる最先端AIモデルの、最も代表的な例です。
他にも複数のベンダーが、高性能でセキュリティ用途に特化した最先端AIモデルを展開しているほか、サイバーセキュリティ研究に容易に応用できる高性能なオープンモデルを提供しているベンダーもあります。
そのため、Claude Mythosは決して唯一の選択肢ではありません。
例えば、OpenAIのGPT-5.4-Cyber(およびGPT-5.5)は、脆弱性の分析・発見のほか、マルウェア分析や脅威モデリングにも応用されています。セキュリティベンダーや企業、研究者は、OpenAIのTrusted Access for Cyber(TAC)スキームを通じてこの技術にアクセスできます。
中国のサイバーセキュリティ企業である360セキュリティテクノロジーは「Tulongfeng」を開発しました。これは、Anthropicの Mythosに対する中国国産の回答と位置づけられています。
DeepSeek V3.2やLlama 4など、高性能なオープンモデルはGPUインフラ上でプライベートに実行し、サイバーセキュリティ研究に応用できます。日本のベンダーSakana AIの「Fugu」も、この分野の選択肢のひとつです。
7.
サイバーセキュリティの批評家はClaude Mythosについて何と言っているのか
情報セキュリティの批評家たちは、Claude Mythosが疑いなく先進的である一方、本番システムを確実に突破できるとするマーケティング上の主張は、その能力を過大評価していると指摘しています。
セキュリティ専門家たちはポッドキャストなどを通じ、Claude Fableのガードレールが過剰に敏感で、セキュリティ関連のブログ記事を要約するだけの依頼や、単に「exploit(悪用)」という単語を綴るだけの依頼でさえOpus 4.8へダウングレードしてしまい、ましてや日常的な情報セキュリティ業務をこなすことなど到底できないと不満を漏らしています。
また別の専門家は、最先端AIモデルを用いたサイバーセキュリティ研究では、誤検知が問題になる可能性が高いと警告しています。
より広い視点からの批判としては、脆弱性をより速く多く見つけられるようになっても、セキュリティ上の欠陥を確実に修正することや、ソーシャルエンジニアリングのような非技術的な攻撃経路への対処という、より根本的な課題は解決されないという指摘があります。
8.
企業のCISOは、Mythosの発展にどう対応すべきか
「ファイブ・アイズ」同盟を構成する西側諸国の情報機関は、Claude Mythosのような最先端AIモデルが、年単位ではなく月単位の規模で「攻撃・防御両面のサイバー能力を根本的に変えつつある」と警告する声明を発表しました。
米国家安全保障局(NSA)や英国のサイバーセキュリティ庁(NCSC)などが加盟するこのグループは、「AIは時間の経過とともにサイバー防御の改善に役立つ一方で、サイバー脅威の速度・規模・巧妙さをも加速させる」と警告しています。
企業は、サイバーセキュリティのレジリエンスを高めるための包括的な取り組みの一環として、防御力強化のためにAIを活用する必要があります。
ある専門家は、人間の攻撃者よりも速く現実的な攻撃経路をマッピングできるAIベースのシステムが急速に広範な脅威となりつつある一方、大半の組織はそれが自社の脅威モデルにとって何を意味するのか、まったく準備ができていないと警告します。
コンサルティング会社Elixirrのパートナー兼CISOで、元マッキンゼー・パートナーのジョー・ハバック氏は、次のように述べています。「われわれはいまや、ソフトウェアやベンダー、重要インフラ全体にわたる現実的な攻撃経路を、人間の攻撃者がカタログ化するよりも速くマッピングできるAIシステムを手にしています。そして、Mythos級の能力が広範な商用リリースに向けて準備される中、これはもはやニッチな研究課題ではなく、あらゆる組織が自社の脅威モデルに組み込まざるを得ないものになっています」
クラウドセキュリティアライアンスによるAI安全性に関する論文は、AIが脆弱性発見から悪用までの時間を大幅に圧縮し、従来のパッチ対応型セキュリティモデルを上回るペースになっていると警告しています。組織は、Project Glasswingやその他のソースから次々と発見されるAI由来の脆弱性の波に備えるべきだとしています。
同論文は「Mythosに見られる能力は急速に広く普及し、組織が直面する複雑で新規性の高い攻撃の件数と頻度を劇的に増加させるだろう」と警告しています。
企業のセキュリティ防御担当者は、継続的な脆弱性対応、迅速な優先順位付け、そしてインシデント対応の改善を中心に据えた「Mythos対応」型のアプローチへと移行する必要があります。
関連記事:
John Leydenは、CSO Onlineでサイバーセキュリティを担当するライターです。コンピューターネットワークとサイバーセキュリティについて、20年以上にわたり執筆してきました。
CSOに加わる前、John はPortSwiggerのThe Daily Swigで、ウェブセキュリティ、脆弱性、ハッキング文化などのトピックについて執筆・編集を担当していました。また、SwigCastポッドキャストの共同ホストも務めていました。それ以前の17年以上にわたっては、The Registerでネットワークセキュリティやエンタープライズ技術など幅広いトピックを取材していました。The Registerでの功績により、テクノロジージャーナリズムへの貢献を称えるBT Enigma賞をはじめ、数々の賞を受賞しています。
インターネットが普及する以前、Johnは英国マンチェスターの地方新聞で事件記者として働いていました。ロンドン大学シティ校で電子工学の学位を取得しています。