ID なくして復旧なし:サイバーレジリエンスはIAMから始まる

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OPINION

企業がランサムウェアなどのサイバー脅威にさらされても事業を継続するには、サイバーレジリエンスが欠かせません。そして、見過ごされがちなのがアイデンティティのレジリエンスです。アイデンティティのレジリエンスは、サイバーレジリエンスの前提条件にあたります。データやアプリケーションの回復計画を用意していても、ID基盤にアクセスできなければ、チームはアプリケーションを使えず、その計画は意味をなしません。

多くの実務担当者は、Active Directory(AD)のレジリエンスについてはよく知っています。攻撃者が業務を停止させるために、ADを頻繁に標的にするためです。2017年に発生した破壊型マルウェア「NotPetya」によるMaerskのインシデントを覚えている方も多いでしょう。このインシデントでは、MaerskのADドメインコントローラーのほぼすべてが破壊されるか使用不能になり、世界規模の海運・港湾業務が停止しました。唯一生き残ったADドメインコントローラーは、停電の影響で攻撃中にたまたまネットワークから切り離されていた現地オフィスにあったものでした。この1台のおかげで、Maerskはグローバルなアイデンティティ環境を再構築できたのです。

こうした壊滅的な事態の可能性を踏まえ、アイデンティティのレジリエンスはIDチームやIT運用チーム、とりわけ事業継続・災害復旧(BCDR)部門にとって最大の関心事となっています。しかも、ID基盤がオンプレミスのADからクラウドベースのIDプロバイダー(IdP)へと移行し、状況は変わりつつあります。両チームは連携する必要がありますが、この課題を見る視点はしばしば異なります。

IDチームは、現代の企業に存在するID・アクセス管理(IAM)の複雑さを熟知しています。Omdiaの調査によると、平均的な企業は約1,200のアプリケーションを利用しており、障害後に事業継続に必要なアプリケーションを再接続する作業は容易ではありません。

こうしたアプリケーションへのアクセスは、通常IdPを経由します。企業にはIdPが1つだけあると思われがちですが、実際には複数存在することが少なくありません。顧客向け基盤のための顧客ID・アクセス管理(CIAM)用IdPがあり、さらに合併や組織固有の要件によって、従業員向けのIdPが複数あるケースもあるためです。Omdiaの調査では、IdPを1つだけ使う企業よりも、複数のIdPを使う企業のほうが多いことが分かっています。

IDチームは、サイバーインシデントから回復するためのレジリエンスが必要だと認識しています。同時に、業務を中断させかねない日常的な運用上のトラブルにも対処しています。たとえば、IdPにデータを「供給」する上流システムの構成ドリフト(HRドリフト、AIドリフト)や、管理者のミス(設定の入力ミスにより変更を元に戻す必要が生じるなど)です。こうしたドリフトは、社内業務や対外的な事業を止めかねないだけでなく、ドリフトから脆弱性へとつながる経路も生み出します。特にIDチームにとって、アイデンティティのレジリエンスとは、単にIdPの稼働時間を指すものではありません。

この復旧プロセスには、アイデンティティ特有の細かな配慮が数多く必要です。たとえば、IdPのインシデント後には、IDチームがアプリケーションをIdPに再接続しなければなりません。

一方、IT運用やBCDRの担当者は、通常、サイバーレジリエンスやデータレジリエンスを軸に業務を進めます。組織にとって最も重要な業務サービスを利用可能な状態に保ち、中断後には予測可能かつ迅速に復旧させることが任務です。サイバー脅威への対応では、バックアップ、復旧、サイバーレジリエンスを整合させ、「最小限の事業運営(minimum viable company)」を復元できるようにします。これにより、ランサムウェアなどの脅威による障害が財務、業務、規制、評判に及ぼす影響を抑えます。通常は、目標復旧時間(RTO)や目標復旧時点(RPO)を満たすためのバックアップに重点を置いています。

IT運用の基本的なアプローチは、正常だと確認できている時点に業務を戻すことです。アプリケーションやデータでもこれは複雑ですが、ID基盤では複雑さがさらに一段と増します。IdPを支えるデータ復旧という機能の有無を確認するだけでは済みません。上流と下流の両方の依存関係も含める必要があります。アイデンティティの各コンポーネントは、適切な依存関係を踏まえ、正しい順序で調整しなければなりません。

アイデンティティのレジリエンスに向けた連携

エージェントのIDが急増する世界でアイデンティティのレジリエンスを確保するには、IDチームとIT運用チームが連携し、取り組みを強化する必要があります。アイデンティティのレジリエンスを確立し、維持するうえで考慮すべき主なポイントは次のとおりです。

  • ID環境を把握し、包括的にカバーする: AD、従業員向けIdP、CIAM用IdPを含むID環境全体と、依存関係(ID環境全体でオブジェクトが何と関連しているか)を把握し、依存関係の回復可能性を確保する

  • 可観測性を確保する: ID環境の変更やドリフトをリアルタイムで可視化し、問題が起きた際に修復できるようにする。正常な状態を定義し、ドリフトを許容できるか判断することも含まれる。可観測性は、入力ミスやシステム起因のドリフト(スクリプト、Terraformなど)を制御することで、予防にもつながる

  • 復旧プロセスを理解する: 重要な業務、グループ、依存関係、解決が必要になりそうな自動化タスクを把握する。このプロセスがレジリエンスの確保とコンプライアンス上の義務の履行に役立つことを検証し、復旧プロセスが重要アプリケーションへのアクセスに関する事業上の優先事項と合致しているかを抜き打ちで確認する

ID基盤はアプリケーションとデータへのアクセスを支えているため、アイデンティティのレジリエンスはサイバーレジリエンスの前提条件です。アイデンティティのレジリエンスは不可欠ですが、簡単ではありません。ID基盤は複雑で、多くの依存関係があり、特定の順序での復旧が求められることも少なくありません。適切な技術とプロセスを整えておけば、アイデンティティのレジリエンスを維持し、履歴書を書く羽目になる事態を避けられるでしょう。

翻訳元: https://www.darkreading.com/cybersecurity-operations/cyber-resilience-starts-with-iam

本記事は darkreading.com の記事を翻訳・要約したものです。