企業のリーダーにとって、今回の命令は幅広い課題を浮き彫りにしています。組み込まれたAIモデルを特定し、データの流れ先を追跡し、サードパーティリスクを管理することです。
DeepSeekは米国で大きな打撃を受けました。同社は引き続きイノベーションを重ね、米国のAIラボが開発する競合モデルに肩を並べ、場合によっては上回る性能を示しているにもかかわらずです。
米国の国土安全保障長官は、すべてのDeepSeek製品・サービスを連邦政府機関で使用禁止とする命令を出しました。政府機関は60日以内にITシステムからDeepSeekを排除しなければなりません。「やむを得ない正当な理由」がある機関は、サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)に書面で申請し、適用除外を求めることができます。
国土安全保障省(DHS)は、中国でホスティングされるこのモデルについて、データ主権、中国の緩い法規制、セキュリティ脆弱性など、複数の懸念を挙げました。
InfotechのテクニカルカウンセラーでアナリストのErik Avakian氏は、この懸念に理解を示します。「組織がホスト型AIサービスを利用すると、知的財産や機密性の高い事業情報、その他の機微なデータを、送信後の扱いをほとんど把握も制御もできない環境に送ってしまう可能性があります」と同氏は述べました。
政府が示した懸念
米国連邦官報に掲載された文書によると、中国に拠点を置くHangzhou DeepSeek Artificial Intelligence Co.が開発したすべての技術は、連邦の文民機関による調達が禁止されます。対象には、関連会社の製品のほか、DeepSeekの実装を使って構築されたサードパーティ製のツールやソフトウェアも含まれます。
影響を受ける文民の行政機関には、財務省、国務省、司法省などがあります。一方、民間の消費者、一般市民、州・地方政府、国防総省(DoD)の国家安全保障システムは対象外です。
命令は「DeepSeekのモデルには複数の脅威ベクトルがある」と指摘しています。まず、同社のサーバーは中華人民共和国(PRC)にあります。PRCの法制度は、政府のサイバー部門や情報機関に対し、民間のインフラにアクセスする「広範な権限」を与えています。
命令によれば、DeepSeekのアカウント作成過程では個人を特定できる情報(PII)が収集されます。ユーザーを追跡し、デジタルフィンガープリントを取得している可能性もあります。プロンプトへの応答処理を通じて、機微なデータがPRCに送られるおそれもあります。その結果、米国のプログラムや個々のユーザーに関する「実用的なインテリジェンス」を与えかねないとしています。
さらに命令は、DeepSeekのモデル自体にマルウェアなどのセキュリティ脆弱性が含まれている可能性があるとしました。DHSは、2025年2月に公開されたオープンソースのセキュリティ調査に言及しました。この調査では、複数の重大な脆弱性を抱えるiOSモバイルアプリが多数見つかっています。
禁止措置が完全に発効するまでの間、DHSは各機関に対し、リスクを軽減するための対策を求めています。具体的には、インバウンドとアウトバウンドのデータトラフィックの監視、ログ記録の強化とデータ窃取対策の導入、異常な動きの検知とフラグ付けです。
各機関は、禁止措置の例外を書面で申請できます。その際は「やむを得ない正当な理由」を示す必要があります。たとえば、ミッションクリティカルな機能への影響や、国家安全保障上の審査、調査、安全保障協定といった国益に関わる事情を挙げ、例外が認められるべき理由を説明しなければなりません。
相次ぐセキュリティ問題
今回の禁止措置は、DeepSeekが自社開発の推論フレームワーク「DeepInfer」をオープンソース化したタイミングと重なりました。DeepInferは「DeepSeek-V4.1-Flash」を支えており、同社によると高スループットと低レイテンシを実現します。高性能カーネル、最適化された推論エンジン、構造化出力、投機的デコーディングなどを備えています。
DeepSeekは、DeepSeek APIの処理ロジックと整合する本番環境のトークンエンコード/デコードのコンポーネントにより、「コミュニティによる展開でも同じAPI動作」を実現できると説明しています。
DeepSeekはソーシャルメディアのXで、「オープンなモデル。オープンなカーネル。オープンな推論」と投稿しました。続けて「プライベート環境からパブリッククラウドまで、大規模推論をより効率的にするため、コミュニティと協力を続けます」と述べています。
同社がサイバーセキュリティの面で壁に突き当たったのは、今回が初めてではありません。特に2025年1月には、保護されていないデータベースを通じて、チャット履歴やAPIシークレットなどの機密情報を含む100万件超のログが流出しました。このほか、サイバーセキュリティの観点では、攻撃者がDeepSeekになりすましてマルウェアを配布する事例もありました。
Avakian氏によると、DeepSeekはこの問題に対処したとされています。それでも、プラットフォーム全体のセキュリティ対応に疑問が残りました。特に、自社の機微な事業情報を預けることを検討する組織にとっては大きな懸念です。
同氏は、DeepSeekのモデルがすべて「本質的に悪意がある」と言いたいわけではないと述べます。ただ、データプライバシー、中国の法律に基づく情報アクセスの可能性、AIエコシステム全体のセキュリティ、DeepSeekのモデルのジェイルブレイクや操作への耐性について、依然として大きな疑問があるといいます。
「これらを総合すると、組織が関連するリスクを十分に理解し、管理できるのかという正当な懸念が生じます」とAvakian氏は語りました。
企業は関連リスクを真剣に評価すべき
Avakian氏は、企業によるDeepSeekの検討が増えていると指摘します。ただし、公に確認できる導入事例の大半は中国国内にとどまっています。一部のDeepSeekモデルは、Microsoft AzureやAWSなどのプラットフォーム経由でも提供されています。
「生産性の向上、新機能の提供、コスト削減の機会を探す組織が多く、この技術には本物の企業ニーズがあります」と同氏は言います。文書要約、社内調査、コーディング支援などが有用な用途です。
DeepInferにもコスト削減の可能性がありますが、期待できるメリットは関連するセキュリティリスクと比較して検討すべきだと、同氏は指摘します。このフレームワークは公開されたばかりです。組織は、削減効果が自動的に運用コストの低下につながると決めつけず、自社環境で効率化の主張を検証する必要があります。
同氏は、まずリスクが比較的低いユースケースから始めるよう促しています。「公開データ、合成データ、または適切に無害化した情報」を使い、自社で管理するサンドボックス環境で試すのが望ましいといいます。
重要なのは、「解決しようとしている事業上の課題は何か」と問うことです。Avakian氏によれば、そこからDeepSeekが最善の解決手段かどうかを見極め、セキュリティ統制を検証し、リスク許容度に応じてユースケースを広げていきます。ガバナンスとリスク評価が鍵になるとも述べました。自社環境に何を持ち込むのかを把握し、そのセキュリティを検証し、権限を制限し、動作を監視できるようにすることが重要です。
「他のソフトウェアのサプライチェーンに関する判断と同じように考えてください」とAvakian氏は助言します。「オープンソースであることや、安価であること、技術的に優れていることだけで、企業利用に適していることにはなりません」
AIエコシステム全体への影響
Avakian氏は、今回の命令がDeepSeekの実装を使って開発されたサードパーティの製品・サービスにも言及した点が重要だと語ります。組織はベンダーやソフトウェアプラットフォーム、その他のサービスを通じて、裏で何が動いているかを知らないまま、間接的にDeepSeekの技術を使っている可能性があるためです。「これらは典型的なサプライチェーンの問題です」と同氏は述べました。
従業員がどのAIアプリケーションを使っているかを把握するだけでは、もはや不十分だといいます。企業は、購入・導入する製品にどのモデル、フレームワーク、依存関係、外部サービスが組み込まれているかを理解しなければなりません。そのためには、AIインベントリーの見直し、調達要件の更新の検討、サードパーティリスク管理のプロセス拡充が必要だと、同氏は助言しています。
「最終的に、こうしたツールを活用する企業は、自ら意図して導入するAI技術だけでなく、サードパーティ経由で受け継ぐ技術も理解する必要があります」と同氏は語りました。
この記事はもともとCIO.comに掲載されました。