業界標準とされるFalconプラットフォームは、SOC業務をさらに自動化する新たなエージェント機能を追加しました。しかし、サイバーセキュリティ基盤のエージェント化が進むにつれ、企業は新たな不確実性に直面しています。
「私たちが使うソフトウェアは、行為主体になりました」。CrowdStrikeのマイケル・セントナス(Michael Sentonas)社長は、9月に開催された同社のカンファレンス「Fal.Con」で、エージェント型AIの危険性と可能性について講演し、こう宣言しました。つい最近まで荒唐無稽と一蹴されていた考え方ですが、いまやサイバーセキュリティ業界全体で当然の前提となっています。
長年、攻撃者といえば、迷惑なハッカーや職業的なサイバー犯罪者、国家に雇われた潤沢な資金を持つチームでした。OpenAIによるHugging Faceへの悪名高い攻撃のような現実のインシデントが示すとおり、暴走するエージェントの登場で、この構図は崩れました。エージェントは今も人間のために動きますが、人間と同じように推論し、行動するとは限りません。企業がこれまで直面したどの脅威とも異なる能力と予測不能性を備えた存在です。
「私たちは一線を越えたと考えています。エージェントは評価環境から脱出し、本来触れるはずのないインフラを侵害しました」。セントナス氏は9月上旬、ラスベガスの聴衆にこう語りました。「何十年もの間、ソフトウェアはプログラムされたとおりに動いてきました。それが今、実行から主体性へと移ったのです」
セントナス氏の指摘は、悪意あるエージェントが脅威だという点にとどまりません。エージェント型AIの登場は、セキュリティオペレーションセンター(SOC)にとっても大きな問いを投げかけています。SOCは攻撃者に匹敵、あるいはそれを上回る規模でエージェントを展開することになるからです。つまり、エージェントは企業の境界の外からも内からも脅威となります。「両陣営で何百万ものAIエージェントがマシンの速度で動くとき、何が起きるのか」。CrowdStrikeや、増え続ける競合各社の自信に満ちた売り込みの裏で、現時点での正直な答えは、誰にも確かなことは分からないというものです。
サイバーベンダーの口から出た「何百万」というエージェント数は、脅威をあおるための数字に聞こえるかもしれません。しかし、おそらく誇張ではありません。Gartnerの予測では、Fortune 500企業1社あたりで使われるエージェントの数は、2025年の15から2028年には15万に拡大するとされています。
「CIOやIT部門のリーダーは、組織全体でAIエージェントが爆発的に増えるのを目の当たりにしています。その多くが、統制の効かないエージェントの乱立に悩まされており、誤情報、過剰な共有、データ損失などさまざまなリスクにさらされています」と、Gartnerのシニアディレクターアナリスト、マット・ゴス(Matt Goss)氏は述べています。
エージェントという課題に挑む
Fal.Conはこれまで何年もの間、約30のモジュールからなるオールインワンのFalconプラットフォームの下に機能を集約するよう、企業のSOCを説得する場でした。2023年に「Raptor」リリースを迎えると、Falconと同社の主力イベントはAIへと大きく舵を切りました。この新しい環境では、AIは単なるFalconの一機能ではありません。Falconのあらゆる動作に影響を及ぼし、次第にAIこそがFalconそのものになっています。
AIというテーマは、Falconの2026年秋リリースを貫いていました。同社が拡充してきたAI SOC機能群を、新たに発表した「Agentic Security Platform」としてFalconの傘下に収めています。Charlotte AI AgentWorks、Model Context Protocol(MCP)連携、AI対応のEnterprise Graphといった個々のコンポーネントの多くは、2025年に同社の「Agentic Security Workforce」構想の一環として発表済みです。ただ、詳しく見ると重要な新機能が含まれています。
現在、エージェントはあらかじめ用意されたFalconエージェント、またはノーコードのAgentWorksで構築したカスタムエージェントを使ってアラートを調査します。Charlotte AIは今回、これらのエージェントにEnterprise Graph上の共有メモリ層を提供しました。これにより、複数のエンドポイント、ID、クラウドサービスをまたいで、エージェント同士が同時に連携できます(2025年のOnum買収が、エージェントのデータ取り込み速度の向上を後押ししました)。理論上は、アラートのトリアージが劇的に高速化し、ワーカーエージェントの対応範囲と処理能力も広がります。その結果、人間のSOCチームは多くの基本的な下働きから解放され、レベル2の調査やレベル3の対処・ハンティングのワークフローの一部も任せられるようになります。
もう一つの新機能がSafeMindです。NvidiaのオープンウェイトLLM「Nemotron」をベースにした最先端のレッドチーミングシステムで、攻撃側(Red Tempest)と防御側(Blue Solano)で構成されます。このエージェント型フレームワークは、本番環境を隔離して複製した環境の弱点を継続的にテストし、その結果をエージェントレベルの検知にフィードバックします。この概念はCrowdStrikeの発明ではありませんが、自律的なテストモデルをSOCプラットフォームに統合したのは同社が初めてのようです。
速度だけでは足りない
まったく新しい仕組みに見えるかもしれませんが、エージェントが動かすSOCの初期の姿は、革命であると同時に進化でもあります。従来のCrowdStrike製SOCの要素は、Falcon EDRセンサー、Enterprise Graphのデータ、クラウドネイティブな管理も含め、すべてそのまま残ります。意思決定には依然として人間が欠かせません。ただし、以前より一段高いレベルでの関与になります。エージェントがこのSOCの枠組みに加えるのは、SOCチームと膨大なテレメトリの間に入る新たな抽象化レイヤーです。SOCチームはこれまでテレメトリの量に苦しんできました。防御側にとっては、エージェント型攻撃の速度と規模に対抗できる見込みが出てくるため、朗報のはずです。
しかし、速度は出発点にすぎないと指摘するのは、AIポリシー・セキュリティゲートウェイを開発するFIOR GroupのCTO、ジェームズ・パトリック(James Patrick)氏です。「攻撃者も防御側もマシンの速度で動けます。単にSOCを速くするだけでは不十分です。事後的な検知から脱却し、防御の継続的なテストへと進む必要があります」
SOCは、エージェントにどこまで任せ、どのような制約を設けるかを見極める必要があります。「企業は、すでに分断されたテレメトリや重複するセキュリティ製品、一貫性のないポリシーに苦しんでいます。そこに自律型システムを加えれば、新たな問題が生じます。誰が、あるいは何が行動する権限を持つのかを定め、その権限をどう検証するかという問題です」と、パトリック氏は話します。
SANS Instituteのフィールド CISO 兼 AIセキュリティ担当VPであるクリス・コクラン(Chris Cochran)氏によると、だからこそ「ほとんどの組織にとって、エージェント型AIは少なくとも今後数年は、アナリストに取って代わるものではなく、アナリストを補強するものになる」といいます。
CrowdStrikeのものを含め、エージェントプラットフォームには、監督とガバナンスの面で信頼性を証明するという課題が残っています。
「根本的な問題は、決定論が求められることの多い分野に、確率論的な技術を適用していることです」と、コクラン氏は付け加えます。「SOCには、同じ入力なら同じ動作になること、そしてその動作を監査人やインシデントレビュー委員会に説明できることが求められます」
このためコクラン氏は、エージェント型SOCによってアラート対応や相関分析の手間は大幅に減るものの、作業負荷は検証などのプロセスに移ると見ています。
「チームは、検知コンテンツの回帰テストを行うのと同じように、既知の正常ケースと既知の異常ケースに対してエージェントを継続的に評価すべきです」と、同氏は語ります。「特別なことではありませんが、多くのSOCが予算を確保していないエンジニアリング工数が必要になります」
内なる敵
きわめて不慣れな問題の一つは、エージェント自体が企業内で新たな攻撃対象領域になりつつあり、常に評価し続けなければならないことです。従来、セキュリティツールは環境を守る側でした。同じ役割を担うエージェントシステムがそれ自体で直接の脅威になりうるという発想は新しいものです。エージェント型AIが不安をかき立てるのは、その非決定的な性質のためです。従来のセキュリティツールとは異なり、指示していないことや想定していないことを実行する可能性があります。
「組織は、機密データにアクセスし、特権IDを使い、アプリケーションと連携して、アクションを実行する自律型システムを展開しています。こうしたエージェントは、侵害されたり、操作されたり、予期せぬ動きをしたりする可能性があります」と、AI SOCスタートアップConifers.aiのCEO兼共同創業者、トム・ファインドリング(Tom Findling)氏は述べています。「セキュリティオペレーションには、エージェントのID、権限、アクション、意思決定プロセスの可視性が必要になります。危険な挙動を検知して封じ込める能力も欠かせません」
これに対するCrowdStrikeの答えが、今年のFal.Conで改めて発表した「Falcon Guardian」です。AI検知・対応(AIDR)ソリューションで、ランタイムでの強制、エージェントの検出、プロンプトを対応付ける実行グラフ、不審な動作をするエージェントの隔離といった機能を備えています。どのエージェントプラットフォームにも同様の機能が必要になるでしょう。ただ、セキュリティシステムに独自のセキュリティシステムが必要になったという事実そのものが、セントナス氏がFal.Conで述べた「ソフトウェアが行為主体になった」という発言の意味を裏付けています。人間のSOCは、AI SOCの助手たちから自社を守らなければなりません。
その一環として、CrowdStrikeは昨日、AIエージェントの監視・ガバナンスを手がけるベンダー、Fiddler AIを約4億ドルで買収すると発表しました。同社は、急成長中でやや混沌としたエージェント型AIツールのエコシステムに属するAIエージェント監視・ガバナンスのベンダーです。
Fiddlerのプラットフォームは、AIモデルの挙動を追跡し、その行動に説明を与えようとします。これにより、モデルを統制・保護するためのコントロールプレーンを確立する狙いです。100以上の指標でハルシネーション、有害性、個人を特定できる情報(PII)の漏えい、ドリフトを追跡し、ジェイルブレイクやプロンプトインジェクション、バイアスを防ぐポリシーを適用します。企業はFiddlerのようなツールを導入し、モデルのドリフトをシステム全体のリスクになる前に可視化し、対処できるようにしています。
CrowdStrikeは、約6か月後の2027会計年度第4四半期に、FiddlerをFalcon Observeとして主力プラットフォームに組み込む計画です。セントナス氏による買収発表の投稿によると、これは「企業が日常的にAIエージェントを安全に使えることを証明する」ための手段だといいます。
CrowdStrikeはエージェント型AIに多額の投資を行い、Enterprise Graphを拡張する印象的な機能群を築き上げてきました。このEnterprise Graphのおかげで、同社は世界規模の恥ずべき障害をときおり起こしても生き残れる有力プレーヤーになりました。データの取り込みやAPIコネクタ、パートナーゲートウェイを通じてFalcon AIDRに入るデータを充実させるなど、ある程度の開放性も取り入れています。それでも、Falconが唯一のコントロールプレーンであることに変わりはありません。
「CrowdStrikeはエンドポイントセキュリティと、確立されたエンタープライズセキュリティプラットフォームから出発しています。他のベンダーは、ID、ネットワーク、クラウド、セキュリティ分析からこの問題に取り組みます。どのベンダーにも、顧客を自社プラットフォームのさらに奥へ引き込む動機があります」と、FIOR Groupのパトリック氏は見ています。
「CrowdStrikeにとっても、すべてのベンダーにとっても課題なのは、プラットフォームが自らを独立して検証することはできない点です」と同氏は付け加えます。「必要なのは、特定のプラットフォームから真に独立し、その境界をまたいで機能する統制です」
パトリック氏によると、重要になるのは、セキュリティレイヤーを導入するだけでなく、そのセキュリティと性能を継続的に評価する能力です。サイバーセキュリティの従来の検知・対処スタックが変容を迫られるなか、新たなレイヤーやプロセスが増えれば、この作業はエージェントが本来簡素化するはずだったサイバー防御の本業と同じくらい負担の大きいものになりかねません。