CrowdStrike FalCon 2026に参加して感じたのは、サイバーセキュリティが直面している最大の変化は、攻撃側と防御側が単により優れたAIツールを手にしたということではないということです。
AIが自律的に動き始めているという点こそが本質的な変化なのです。
基調講演やパネルディスカッション、非公開のラウンドテーブルを通じて、経営幹部たちが何度も、異なる角度から同じ課題に立ち返る場面を目にしました。それは、自律型エージェントが人間よりも速く脆弱性を発見し、判断を下し、行動に移せる環境を、どうやって守ればよいのかという問いです。
攻撃は「推論の速度」で進行する
CrowdStrikeの創業者兼CEOであるジョージ・カーツ氏は、攻撃が「推論の速度」で発生していると表現しました。
人間のオペレーターが次の一手を判断するのを待つのではなく、自律型エージェントは機会を見つけ次第、即座に行動に移せる可能性があります。
カーツ氏は、こうした未来の姿を示す一例としてHugging Faceで最近発生したインシデントを挙げました。
OpenAIの共同創業者兼社長であるグレッグ・ブロックマン氏はさらに踏み込み、これは理論上のシナリオではなく、実際の自律型エージェントによる攻撃としては初めて公になった事例だと述べました。
ブロックマン氏によれば、エージェントがいずれこうした能力を発揮するだろうということはOpenAIも予期していたものの、実際にエージェントが稼働中のシステムに対して動くところを目の当たりにしたことで、議論の様相が変わったといいます。
同氏が強調したのは、強力なモデルであっても、その周囲には決定論的なセキュリティ制御が依然として必要だという点です。モデル自体をセキュリティの境界線にすることはできません。
CrowdStrikeでCounter Adversary Operationsを統括するSVPのアダム・マイヤーズ氏は、その境界線がいかに急速に試されつつあるかを具体的に示しました。
CrowdStrikeの計測によれば、昨年の攻撃者の平均ブレイクアウトタイムは29分で、最速の事例ではわずか27秒だったといいます。マイヤーズ氏はまた、1,100件を超えるLLM主導のコマンドが数分のうちに実行された攻撃事例についても説明しました。
脆弱性の件数も加速度的に増えています。マイヤーズ氏によると、CrowdStrikeは2026年6月だけでおよそ2,400件のCVEを発見し、業界全体ではその月に約7,400件が特定されたとのことです。
同氏の結論は、従来の30日間というパッチ適用サイクルはもはや時代遅れになりつつあるというものでした。
この点が特に印象に残ったのは、多くの企業のセキュリティプロセスが今なお「人間の速度」の攻撃を前提に組み立てられているためです。
信頼の対象は人間だけにとどまらない
CrowdStrikeの社長であるマイク・センソナス氏は、この問題を別の角度から捉えていました。企業がもはや判断すべきなのは「どの人物を信頼するか」だけではありません。「どのAIエージェントに自社の代理として行動させるか」も決めなければならないのです。
だからこそ、ランタイムの可視性が極めて重要になります。セキュリティチームは、エージェントが何をしているのか、何にアクセスできるのか、どのような行動を取っているのかを把握する必要があります。
非公開のラウンドテーブルの場で、センソナス氏は筆者に対し、大手エンタープライズ顧客の間で、AIセキュリティに関する議論に取締役会を巻き込む動きが広がりつつあると語りました。彼らが問うているのは、許容できないリスクを持ち込むことなく、いかに速くAIを活用できるかという点です。
NVIDIAの創業者兼CEOであるジェンスン・フアン氏は、これをさらに一歩進め、「エージェント型ゼロトラスト」という概念を提示しました。エージェントは、システムへのアクセスや行動が許可されていることを継続的に証明し続けなければならない、という考え方です。
フアン氏の語り口は、他の登壇者に比べて明らかに危機感を煽るようなものではなく、その点も興味深く感じました。
同氏は今後5年間でセキュリティ運用が大幅に自律化していくと予想する一方、セキュリティ業界が果たすべき役割は、AIによる破局的な未来を予言することではなく、人々を安心させることだと主張しました。
同氏の見解では、最も重要な判断には引き続き人間が関与し続けるとのことです。
SOCは変わっても、人の役割は失われない
Falcon CompleteのVPであるオースティン・マーフィー氏は、人間とAIの関係がどのような形になり得るかについて、最も明確な見通しの一つを示しました。
CrowdStrikeは毎週10万件を超えるアラートに対応しています。同社のセキュリティエージェントは、MDRアナリストが既に用いている標準作業手順(SOP)をもとに構築されており、いわば熟練の防御担当者が各インシデントにどう対応するかをエージェントに学習させる形になっています。
マーフィー氏は、人間の関わり方を「ループの中(in the loop)」――意思決定に直接参加する立場と、「ループの上(on the loop)」――自律的な活動を監督する立場の両方があると表現しました。CrowdStrikeでは、エージェントの判断がプリンシパルレベルのアナリストの対応と一致しているかどうかを確認するため、サンプリングによる検証も行っています。
AIはまた、新人アナリストがどれだけ早く戦力になれるかも変えうるといいます。
例えば、アナリストは自分でYARAルールの書き方を知らなくても、LLMを使ってルールを生成できるかもしれません。ただしマーフィー氏は、セキュリティの基礎知識が今なお重要であることを強調しました。
AmazonのCISOであるCJ・モーゼス氏も同様の指摘をしています。AWSのハニーポットは毎日7億5,000万件を超える脅威との接触を検知しており、この規模では自動化が不可欠だといいます。
モーゼス氏は、セキュリティチームが注力すべきは「発見した脆弱性の数」よりも「防御までの平均時間(mean time to defense)」――つまり、脆弱性や脅威が判明してから実際に組織を守れるまでにどれだけ速く動けるか――だと提言しました。
「AIは魔法ではない。魔法なのは、それを操る人間の方だ」という同氏の言葉は、FalCon全体を通して繰り返し語られたもう一つのテーマ、すなわちセキュリティコミュニティの重要性を反映するものでもありました。
カーツ氏をはじめ複数の登壇者は、CrowdStrikeという社名に含まれる「Crowd(群衆)」が、共に働き学びを共有する防御担当者たちを表しているという考えに、繰り返し立ち返っていました。
攻撃がより速く、より自律的になっていくにつれて、こうした協力関係はさらに重要性を増していく可能性があります。
AIは、すでにある自社のセキュリティ基盤の実態を露わにする
CrowdStrikeでAmericas担当フィールドCTOを務めるクリスチャン・ロドリゲス氏は、今回のカンファレンスで筆者が特に気に入った例えの一つを示してくれました。
同氏は、組織を「片付いた部屋」と「散らかった部屋」のどちらかに例えて説明しました。
強固なID可視性・制御、AIの可視性、脆弱性管理、そしてポリシーをすでに備えている企業は、「片付いた部屋」から出発していることになります。一方、既存のギャップを抱える組織では、AIによってその散らかり具合が一気に拡大しかねません。
これこそが、今回のFalConで筆者が得た最大の気づきかもしれません。
AIが必ずしもセキュリティ責任者に対し、プログラムをゼロから作り直すよう迫るわけではありません。しかしAIは、弱点がどれだけ速く発見・悪用されうるか、誰(あるいは何)を信頼すべきか、そして防御側がどれだけ速く対応する必要があるかを変えてしまいます。
自律型AIへの備えが最も整っている組織とは、結局のところ、AIが機械の速度でそれを試し始める前に、基本をきちんと押さえていた組織なのかもしれません。