- OpenAIはAIエージェントでLinuxカーネルを解析し、948件の個別の権限昇格の脆弱性を発見
- 自動化されたパイプラインがエクスプロイトの生成と検証を行い、Linuxのメンテナー向けパッチの作成も支援
- 研究者は、AIが深刻なソフトウェアの欠陥を大規模に発見し、優先順位を付ける能力を高めていると指摘
OpenAIは100万ドル以上を投じてLinuxカーネルのコードを解析し、数千件の脆弱性を発見しました。その中には、この広く使われているオペレーティングシステムにとって深刻な問題になり得た権限昇格の欠陥が、数多く含まれていました。
同社は新たに詳細なレポートを公開しました。5段階のパイプラインを構築し、数千件の脆弱性の洗い出し、実際に危険なものの特定、パッチ作成の支援を実現した経緯を説明しています。これにより、Linuxエコシステムの安全性はさらに高まったとしています。
パイプラインは、脆弱性の発見、動的検証、悪用可能性の評価、パッチ生成、人間によるレビューの各段階で構成されていました。すべて完了した結果、Linuxカーネルで948件の権限昇格の欠陥が見つかりました。
ゲリラマーケティングの側面も
OpenAIは「Linuxカーネルは、Androidデバイス、クラウド基盤、スーパーコンピューターなど、数十億人が使うシステムを支えています」と述べています。
同社は次のように続けています。「カーネルは4000万行を超えるコードを抱え、システムコール、ネットワーク、ファイルシステム、デバイスドライバーを通じて広範な攻撃対象領域を持っています。私たちがLinuxを選んだのは、フロンティアモデルがこれほどの規模と重要性を持つコードベースで、どれだけ効果的に脆弱性を見つけ、そのセキュリティ上の影響を示せるかを検証するためです」
この取り組みは称賛に値します。特に、全体でAPIクレジット約121万ドルがかかった点は注目に値します。一方で、このレポートは同社の最新サイバーモデルのゲリラマーケティングのようにも読めます。レポートはモデル名を明かしておらず、900件以上の欠陥を発見したのは「近日公開予定のサイバーモデル」だとしています。そのうえで、「24件のローカル権限昇格エクスプロイトを開発した」GPT 5.5-Cyberと比較しています。
とはいえ、この成果は無視できませんし、無視すべきでもありません。第1段階では、AIエージェントがカーネル内のセキュリティ関連部分を特定し、潜在的な欠陥をスキャンしました。12時間以内に2,300件を超える候補が見つかっています。続いてOpenAIは追加のエージェントを使い、概念実証(PoC)コードを生成して各候補をテストしました。この工程には30時間かかり、システムは1,724件(当初の候補の約75%)の再現に成功しました。残りの検出結果のうち、モデルの分析ミスが原因だったのはわずか3%とみられます。
次の段階では、エージェントが影響度に応じて脆弱性をランク付けしました。その結果、動作するローカル権限昇格のエクスプロイト1,169件と、情報漏えいを実証するPoC 291件が生成されました。重複や誤検知を除外したうえで、研究者らは948件の個別の権限昇格の欠陥を特定し、それぞれのパッチを作成しました。
OpenAIによると、研究者はLinuxカーネルのメンテナーに連絡する前に、生成されたすべてのエクスプロイトとパッチを確認しました。Linuxコミュニティの助言に従って欠陥に優先順位を付けており、一部はすでに修正されたようです。残る検出結果についても、現在対応が進められているとのことです。
新たな悪用手法
OpenAIはプロセスについて、次のように説明しています。「関連するソースコードをモデルに与え、パッチ作成のベストプラクティスに沿ってプロンプトを指示します。たとえば、パッチに対する静的チェックの実施、周辺コードの開発慣行への準拠、パッチが完全であることを確認するための亜種分析(バリアント分析)などです」
見つかった脆弱性のすべてが「完全に新規」だったわけではありません。OpenAIによると、解析が完了した時点で、Linuxのメンテナーは特定された権限昇格の欠陥のうち61件にすでにパッチを適用していました。さらに43件にはステージング用のパッチがありました。300件弱(約3分の1)は、すでに公に報告・議論されていた状態で、この点も踏まえて受け止める必要があります。
加えて、研究チームは166の悪用手法を調べ、そのうち10件が従来文書化されていなかったことを突き止めました。カーネルメモリの操作、ページグルーミング、データのみを標的とする攻撃による権限昇格などが含まれます。OpenAIは、攻撃者を利することがないよう、これらの欠陥が修正されるまで詳細を公開しないとしています。